
『そうだ埼玉』という歌が、公開から5年の時を経て、再び今、注目を集めている。
目次
「そうだ埼玉」とは
『そうだ埼玉』は、2014年にYouTubeで公開され、全国のLIVE DAMに映像つきでカラオケ配信された。
歌っているのは、埼玉県出身のロックバンド6才児。
翌年夏より、『そうだ埼玉』を含む6才児の2nd『すごろく〜すごいろくでなしの息子〜』が、配信限定で販売開始。
映画『翔んで埼玉』に登場する埼玉ポーズは、この『そうだ埼玉』という歌から生まれたものである。
出所がわからなくなるまで広がる
埼玉ポーズは『翔んで埼玉』から生まれたものと認識している人が結構いるけど、個人的にこれは、すごくいいことだと思っている。
出所がわからなくなるまで広まって欲しいと思っていたからだ。
例えば「ジャンケン」を作った人物は、どこの誰であるか。ここまで長い期間広まると、もはや出所はわからない。
それと同様、あと50年もすればiPhoneを作った人の名を意識することも限りなく少なくなるだろう。
(50年後もiPhoneがなんらかの形で世界に愛されていると仮定して)
ただ、スティーブ・ジョブズという名が風化することは決してない。なぜなら、記録としてしっかりと残っているからだ。
ジャンケンが生まれ、広まった頃の時代とは違う。
埼玉ポーズに関しても、この時代、5秒もかければ誰でも出所はわかる。“埼玉ポーズ”と入力して検索ボタンをタップすれば、すぐ答えは出る。
注目が高まる「そうだ埼玉」
『翔んで埼玉』公開後、『そうだ埼玉』の再生回数がどんどん伸びている。
6才児へのイベント出演依頼や取材も増えてきている。
この5秒の作業をする人が増えているからに他ならない。
自分で調べて得た情報は、一方的に与えられた情報よりも記憶に残りやすい。「気になって調べる」、という作業工程まで記憶の一部に組み込まれるからだ。
そして、その先に待ち受けている動画は、埼玉県民なら誰もが知っているであろう企業や観光地がダンスして出演しているため、より深い印象を見た人に与えることになる。
埼玉ポーズをゴールしたもの
埼玉ポーズは、2014年頃より埼玉県内の各市長、そして、いろんな芸能事務所(芸能人)にお願いに回った。
このあたりは拙著、『なぜ埼玉県民だけがディスられても平気なのか?』に詳細を記しているが、
芸能人では、ダイアモンド☆ユカイさん、デーブスペクターさん、飯田里穂さんが最初に快諾してくれた3人だ。
飯田里穂
ちなみに、ネットで大きくバズった最初が、飯田里穂さんの埼玉ポーズだった。
声優ファンのネットリテラシーは極めて高いため、りっぴーこと、飯田里穂さんの埼玉ポーズは、ネットで大きな話題になった。
本にも書いたけど、一番最初に埼玉ポーズをしてくれた芸能人はダイアモンド☆ユカイさん。次がデーブ・スペクターさん。3人目が飯田里穂さん。2014〜2015年当時いろんな事務所に連絡して、そうだ埼玉.comに掲載してた。芸能界で言うと、埼玉ポーズの元祖はこの御三方https://t.co/wQgeQr8r60
— 埼玉ポーズ仕掛人@鷺谷政明(著書「なぜディス」発売中) (@sagitani_m) 2019年3月31日
映画『翔んで埼玉』を観た人はわかると思うけど、作品の終盤、埼玉ポーズをしている写真がブワーッと出てくるシーン、あの写真の一部は、私が奔走して集めたものである。
そこにやはり飯田里穂さんは欠かせなかった。なので所属事務所(放映新社)に再び連絡したりして。
ちなみに、あの中には自分(鷺谷政明)もいる。気づいた?
アイドル
埼玉ポーズは、市長、芸能人と来て、次に伝播したのがアイドルだった。
埼玉ポーズの存在をいち早くキャッチした、特にAKBとモー娘。ファンらが、握手会でアイドルたちにお願いしたことで、埼玉ポーズの存在が彼女たちの間に広まっていった。
そして、小嶋陽菜や飯窪春菜らの埼玉ポーズ写真がSNS上に拡散され、さらに話題になった。
もうこのあたりからは私の手を離れている。
島崎遥香
そんな、あくまでまだネット上だけの話題であった埼玉ポーズを、最初にリアルなものにしたのがぱるる姉さん。島崎遥香。
彼女は埼玉ウォーカーの表紙撮影のとき、自ら「今埼玉といったらこれでしょ」と言って埼玉ポーズを取ったという。
その後、埼玉ウォーカーの編集部から「表紙に使用していいですか?」という連絡が来た。もちろん私は快諾した。
そうして、ぱるる姉さんの埼玉ポーズ写真の表紙が、埼玉を中心に書店やコンビニに並ぶことになったのだ。
安室奈美恵
そこからの勢いは止まることはなく、埼玉ポーズはテレビ番組のクイズに出題されたり、埼玉をロケに訪れた演者が埼玉ポーズを披露したりと、事あるごとにメディアで取り上げられるようになった。
その頃には私は、埼玉でなにかある度メディアに呼ばれるようになっていた。
そして、埼玉に来たアーティストやミュージシャンが、埼玉ポーズを披露するという慣習が発生する。
極め付けだったのが、さいたまスーパーアリーナで埼玉ポーズを披露した安室奈美恵さんだ。
この画像は、アド街ック天国の埼玉県特集で、1位に埼玉ポーズが出たときの模様。
このときも埼玉ポーズはTwitterトレンド3位にまで浮上。
ちなみにこのアド街放送時、そうだ埼玉TVでLive配信してて、
「なんで埼玉ポーズなんかが1位なんだよ!」とネット大炎上中、「ざまあみやがれ!」と私が発言したことで、いろんなところからクレームが来た。
余談ですが。
時代の半歩先を行く
エンターテイナーは、常に時代の半歩先を行っていることが大事だ。
大衆が「なにこれ?」と一瞬戸惑いながらも、「ああ、これか!」とギリギリついてこれる、あくまで「半歩」先。
二歩三歩先行ってしまうと、もはやなんだか分からない。誰も理解できない。
みんなが知っているものを同じ歩幅でやってみせるのも、エンターテイナーとしては少々浅はか。それではクラスの人気者レベル。
あくまで半歩先の地点から、大衆に提案してみせることが大事だ。
知ってる人は知っている、知らない人はまるで知らないという、絶妙なバランスにあるタイミングのものを、誰よりも先に嗅ぎ取って披露できるのが一流のエンターテイナー。
知っている人と知らない人がまだまだ二分していた2015年夏、ぱるる姉さんや安室奈美恵さんは、いち早く時代の流れを読み取って、埼玉ポーズを披露してみせた。
あの頃はかなり埼玉ポーズの火種ができている状態で、言うならば、ゴール前がら空きのところにボールが転がって来ていて、さあ、誰がこのボールを蹴り込むか、という状態。
麻雀で言えば、3面待ち立直がかかっているような。
「そうだ埼玉」をゴールするもの
今、『そうだ埼玉』というボールが、まさにゴール前がら空きの状態で転がって来ている。
このボールを最初に蹴り込むのは、いったい誰か。
誰が最初にこの歌を有名にするか、ということ。
有名アーティストか、埼玉にゆかりのある誰かか、または、アイドルか。
少なくとも、原曲者の「6才児」ではない。
なぜならこのバンドは、サラリーマンバンドであり、発信力も行動力もほとんどない。また、それは同時に、この曲に対する妙な執着もないことも意味するわけで、カバーし放題なのだ。
カバーするなら、はなわさんの『埼玉県のうた』も、タイミング的には申し分ないが、
はなわさんはすでに認知度が高いため、オリジナルと比較されすぎてしまう。
また、はなわさんは芸人であり、この曲はコミックソングなので、カバーしたところで、企画感の上に企画感が乗っかってしまう形となり、少々くどくなる。
『そうだ埼玉』はコミックソングという作りではないし、6才児というアーティストの認知度もほぼ皆無のため、印象の比較対象がなく、自分(歌い手)のものにすることができるのだ。
埼玉ポーズが『翔んで埼玉』から生まれたと思わせるほどに。
まさにゴール前がら空き状態。タイミングとしては『翔んで埼玉』ブームに沸く今。遅くとも年内。
Whitney Houstonの『I will always love you』はドリー・パートンのカントリー曲だし、小泉今日子さんの『学園天国』はフィンガー5だし、最近だとDA PUMPの『U.S.A.』もカバーだ。
そして、ホイットニーも、小泉今日子さんも、DA PUMPも、それらのチョイスと表現力で、さらに高いステージへ本人たちも駆け上ったことは、説明するまでもない。
埼玉ポーズの次
「埼玉ポーズは翔んで埼玉から生まれたものではないんだぜ」、という認識は、まもなく時代と同じ歩幅になる。
決して半歩先を行く認識ではなくなるし、映画の影響で埼玉ポーズはさらに定着し、まもなく古いものになるだろう。
埼玉ポーズは、いったい誰が作ったのか、いつからあるのか、その謎めいた微妙な立ち位置が毎回メディアで取り上げられるおいしい存在であったが、『翔んで埼玉』の登場で、まもなくピークを迎える。上がったものは、やがて必ず落ちる。
時代の半歩先を行くような、いわばサブカルアイコン的なものではなくなり、大衆化する。
今や、安室奈美恵さん、安倍首相、羽生結弦選手までが埼玉ポーズを披露している今、「誰々が埼玉ポーズをやった!」といっても、落雷のような強い衝撃を埼玉県民が受けることはあまりない。
しかし、例えば、『そうだ埼玉』をMr.Childrenがカバーしたら、埼玉県民には落雷以上の衝撃が走るだろう。
少なくとも今、誰もそんなことは想像だにしていないからだ。
でもほんの数年前、安室奈美恵さんが埼玉ポーズをするとは、誰も想像だにしていなかった。
今、『そうだ埼玉』は、認知度がまさに数年前の埼玉ポーズと、ちょうど同じくらいのところまで来ている。
歌は、ポーズほど簡易的なものではないので、少々ハードルはあるが、だからこそ決めたときの衝撃は大きい。
ゴール前、足元に転がってきた簡単なボールというよりは、頭上から落ちてくる少々難しいボール。
これを一度トラップするか、ダイレクトでいくか、ヘディングでいくか、またはオーバーヘッドを狙うか。
最初にこのボールを蹴り込むのは誰か。そして、どんなゴールを決めるか。