
出版予定の本には、埼玉県全63市区町村レビューのブロックがあるため、改めていろいろな地域に取材を続けています。
地元民のみが知っていること
編集者さんに
「鷺谷さんが、『草加市といえば草加煎餅が有名なんですよ!』なんていまさら言ってもしょうがないじゃないですか」
と言われた。確かにその通りだと思った。
例えば埼玉県全63市区町村を紹介している本があって、手にとってパラッと目次を見て、草加市のところに「宿場町として栄えた草加市が生んだ草加煎餅の魅力とルーツ!」とか書かれているのを目にしたら、間違いなく自分もそっと棚に戻す。
郷土の歴史に興味があって、地元愛が強い、50~60代の一部の埼玉県民なら興味を示すだろうけど、まず自分自身がそこに該当しないし、少なくとも、わざわざお金払ってまでそんな本買おうと、私なら思わない。
それよりも、地元の人が勝手に楽しんでいるような場所や習慣を知りたい。特に若い世代が。
何にもないっすよ
かといって、「あなたの街の売りは?自慢は?」みたいな聞き方すると、「何にもないっすよ」という答えが帰ってくる。
一見栄えてるような地域でも、「いや、“駅離れれば”何にもないっすよ」となる。
「駅離れれば」が頭につくだけ。
では、地元ならではのことをストレートに聞けばいいかと言えばそうでもなく、例えば越谷市民にとって、阿波踊りは埼玉県民なら誰もが知ってるメジャーなものだと思っていたりするけど、実際は、少し離れてしまうとほとんど知られていないし、だから徳島産のすだちを使った南越サワーが今越谷の居酒屋で出てくるなんてことも当然知らない。
でも地元ではそれくらい当たり前のことだから、地元民だけが知っていることに分類されず、それがなかなか引き出せない。
必勝パターン
50~60代になると、歴史があるものや、つまりは市役所が推しているようなものしか出てこない。
10代~20代は埼玉県そのものに関心がないので、「何にもない」か「東京に出やすい」しか返ってこない。
つまり相手によって、世代によって聞き方を変えないと、欲しい情報を得ることはできない。
が、どの世代でも共通して、その地元ならではのものを聞き出す必勝パターンがある。
それは、「近隣地域のことをどう思っているか」を聞くこと。
多少の温度差はあれど、この質問には、ほぼどの世代でもかなり似た回答が帰ってくる。それこそ10代でも50代でも。
なぜなら他地域への意識は、その土地に住んでいる人間にしか生まれない感情だからである。
その形にできないような感覚を聞くと、その地域の実態に一気に近づける。
温度差の違いは、年齢的なことだけでなく、時代的に「俺らの時代はこうだっただけど、今はあれがあって、これがあるから」といった、環境に依存する違いで、つまりは終戦直後の日本と今を比較しているようなことと同じと言える。
それでも、例えば日本を一括りにして、アメリカや中国と比べてみると、「やっぱり日本人てマナーあるよね」とか「ちょっと謙虚すぎるかもしれないけど、日本人って基本礼儀正しいよね」とか、日本のみの“良さ”に、あらゆる世代が同調するだろう。
地元民のリアルな感覚
「隣の●市には、こういうのがあって、若い人にも人気で、地元の人のみぞ知る、すごいところがあるんですよ」と言うと、「いや、だったらうちには…」と、次から次へと出てくる。
杉戸町には宮代町、蓮田市には白岡市、和光市には志木市、と。大宮と浦和なんてもう大変なことになっちゃうし、そもそも埼玉と千葉も、比較していくことで、それぞれの県民性が浮き彫りになってきた。
その浮き彫りにした状態で聞くと、お行儀のいい話は消え、いろんな本音がどんどん出てくる。
これが実におもしろいんですね。
2年前、「面白いのは「故郷いじり」であって「故郷自慢」ではない」とメルマガに書いたけど、まさにこれ。
そういった地元民たちのリアルな感覚を、がっつり書き上げるので、ぜひ楽しみにしていてください。
他県の人にはいよいよ興味ない本になるだろうなあ。。